夢見る未来は雷で終わる

上坂 涼

 

 

 

 ふと目を開けると、見慣れない土地に立っていた。

 目の前には青い看板のバーガー屋さんがあった。今まで見たことも聞いたこともない名前のお店だった。看板には筆記体の英語で店名が表記されていて、英語に疎い私には読むことが出来ない。店内は無人だ。青い肌をした四角いロボットがカウンターに三人並んでいて、出来上がったバーガーを目の前の台の上に乗せている。台の上に乗ったバーガーは青い光に包まれ、次の瞬間には消えていく。小さなワープ台のように思えた。

 ここはどこなんだろう?

 私は自分で思っているよりも冷静で、落ち着いた仕草で辺りを見渡した。

 すると古びた商店街が南に向かって真っ直ぐ伸びていることが分かった。そして北には先ほどの青い看板のバーガー屋さん。西と東には二車線の道路が走っている。

 異様だったのは、人が誰もいないことだった。東西南北三六〇度見渡してみても、生きた者の気配を感じられない。

 次に異様だったのは、自分がこの十字路に既視感を覚えていることだった。私はその場に立ったまま考えを巡らせてみた。

 ⋯⋯なぜ気がつかなかったのか。この十字路は私——ぼくの通っている学校の通学路だ。

 けど青いバーガー屋さんはクリーニング屋さんだったし、商店街だってこんなにボロボロじゃなかった。

「ぼくの家はどうなってるんだろう?」

 ぼくは駆け足で自分の家まで向かった。ここから走れば三分で帰れるところに家はある。

 不安な気持ちで走って、ぼくは自分の家の前までやってきた。だけどそこには何もなかった。売地と赤く書かれた白い看板が立っているだけ。

「ぼくの家はどこに行っちゃったの? お父さんとお母さんは⋯⋯? おばあちゃんは⋯⋯?」

 ぼくは泣きそうになる自分が嫌で、そこから逃げた。

「これは夢だ。ゆめだ。ゆめだゆめだゆめだゆめだゆめだゆめだゆめだ」

 そうだ。青いバーガー屋さんのところで目を覚ましたんだから、そこから帰れるかもしれない。

 そう思ったぼくはさっきの十字路まで戻ってきた。

「起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ!」

 ぼくは道路の真ん中で一生懸命に叫んだ。けれど自分の声が跳ね返ってくるだけで、見える景色は変わらなかった。

「起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ⋯⋯起きろよぉ!」

「君は⋯⋯もしかして」

 後ろから男の人の声がして、ぼくは振り返った。そこには白衣を着たお兄さんが立っていた。科学者みたいだった。

「坊や、お家に帰りたいかい?」

 泣きそうになるのを我慢して、ぼくはたくさんうなずいた。

「そうだよね。お家に帰してあげるからこっちにおいで」

 ぼくは男の人についていった。バーガー屋さんの近くにある狭い道まで来た。

「こっちだよ」

 男の人が入ろうとしている家は、安前くんというぼくの友達の家だった。家の見た目も全然変わってなかった。

 安前くん家に入ると、男の人は地下への階段を降りていく。安前くんの家に地下はなかったはず⋯⋯なんだか怖い。

 地下に降りると狭い部屋があった。真ん中に青色の椅子が置かれてるだけで、他には何もない。

「その椅子に座って」

 ぼくは怖い気持ちを我慢して椅子に座った。助けてくれるかもしれないんだって信じることにした。

 座ってからすぐに、椅子がウィィンって音を鳴らし始めた。男の人が近づいてきて、その手に持っていた丸い鉄の帽子をぼくに被せてくる。固くてちょっと痛い。

「目を閉じて」

 ウィィィィン! 椅子の音がもっと大きくなった。バチッバチバチという電気がはじける音も鳴り始めた。

 こわい。こわいこわいこわいこわい。心臓がすごい速さで鳴っている。

 ⋯⋯急に身体が浮いたような感じになった。

 気付いたら椅子の音も電気の音も全くしなくなってる。

 いつの間にか目の前に宇宙みたいな景色が広がってた。真っ黒い世界に白い粒々があちこちできらめいてる。

「君は過去からタイムスリップしてきたんだ」

 ——タイムスリップ?

 男の人の声がどこからか聞こえてきた。心に話しかけられている感じだった。

「そう。ここは未来なんだよ。大丈夫。ちゃんと私が君を帰してあげるからね」

 ——うん。

 見たこともない景色と、会ったこともない人達のイメージが宇宙にどんどん浮かび上がって、どんどん消えていく。なんだかとても悲しいような、切ないような不思議な気持ちになった。

「さようなら。また会う日まで」

 雷が落ちたような大きな音が鳴った。宇宙が一瞬で真っ白になった。それからどんどん白くなっていって——ぼくの意識はそこでなくなった。