人生ゲーム

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 私の人生は、ものすごい早さで過ぎ去っていった。

 

 最初の記憶は、幼い頃に実家の裏の川で魚釣りをした記憶。両親とともに過ごした、幸せな時間だった。そして、小学校で旧友と共に学んだ日々。かけがえのない友を作り、低学年の頃は秘密基地だの、冒険だの、今から考えれば馬鹿らしい遊びを飽きずに繰り返していた。高学年になると、ひたすら野球に打ち込んだ。本気でプロになろうとして、暇さえあれば素振り、壁当て、シャドーピッチ。ひたすらに打ち込んだ。中学生の頃は打ち込んでいた野球でなかなか成績が出ず、それに焦って練習をし過ぎ、体を壊した。

 

 野球は無理だと医者に言われ、部活もやめ、ぼんやりとテレビを見て過ごすことが多くなった。そして、世の中物騒な事件が多いと、感じた。この国でも、月に一度や二度は殺人だの、傷害だののニュースがある。国外に出れば銃撃事件やテロが溢れているように感じた。その頃からだ。私はそのような事件に惹かれるようになった。特に犯人が突然豹変して行われる凶行。そんなまるで誰かに操られているように巻き起こる事件に、何故か惹かれるようになったのだ。

 そんな私に共感してくれたのは、今隣の席に座り、共にバスツアーを楽しもうとしている女性だった。大学の同期生である彼女は、私の興味を理解し、ともに楽しむパートナーとなってくれた。出会って50年。その区切りの、ささやかながらも特別なバスツアーだ。

 

 彼女と出会ったのは、大学1年の春だった。お互いに同じ学部、学科で、たまに授業で見かける程度の関係だったが、とある課題で同じチームになり、そこから仲良くなった。待ち合わせは決まって学食、そこのテレビで昼のニュースを見ながらどうでもいい話をするのが、二人の楽しみになっていた。今でも覚えているのは、とある国の銃乱射事件についてだった。真面目だった学生が豹変し、自身の通う大学で短機関銃を乱射し、死者30人、負傷者は50人以上。そんな大事件に対し、私はまるでゲームのようだと、感想を持っていた。真面目だった学生が突然の凶行に及ぶ様、そして、現実味のない被害の大きさ。私の生きている世界とは違う、ゲームの中のような出来事だと思ったのだ。その時、彼女は私の隣で「まるでゲームみたいね」と、呟いた。

 それから更に関係を深め、社会人になってからは婚約し、暇を見つけては様々な事件について意見を交換しあった。不道徳なことではあるが、様々な事件を調べ、ゲームのような世界を楽しんだ。不思議な事に、多くの事件は突拍子もなく、本当に、誰かが操っているように起こっているのだ。私達はいくつかの興味深い事件を追いかけ、時間を見つけてはその地を訪れていた。

 

 このバスツアーも、かつて凶行があった近くで自由時間がある。その時間で、現地に赴くのが目的の一つだった。賑わうバスの中、座り疲れて私は伸びをした。首を回してバスの天井が見えたその時、その更に向こう、はるかな高みに、輪郭だけの手が見えた。目がおかしくなったのかと思い、目をこすってもう一度見る。その手は、確かにそこにあった。手が前の方の座席の上まで行き、まるでボタンを押すように、動いた。それに答えるように、その席の男は立ち上がる。続けて二回、手がボタンを押す。合計三人が立ち上がると、通路に出て声を上げた。

 

「おとなしくしろ!このバスは俺達が占拠した!」

 

ピンときた。妻にも上を見るように促すと、驚きに目を見張る。どうやら見えるようだ。また、手が動く。こちらに向いて上着をはだけ、身体に巻いた爆弾を見せている男の上で、ボタンを押した。

 

「ヒヒヒッ!」

 

「おい、まて!」

 

 男は仲間の声を無視して、手にした爆弾のボタンを押し込んだ。あまりにも早すぎる、目的のあるバスジャックならば絶対にありえないタイミングの行為だ。そう、私達は、きっと「彼ら」にとって、一つの駒に過ぎなかったのだ。私は、妻を見る。妻も私を見た。

 

「「この世界は、ゲームだった!」」

 

圧倒的な爆風に飲まれながら、私達は一つの結論に達していた。